これまでの企画で、素材のこと、色のこと、そしてサイズのことをお話ししてきました。前回は「3サイズではなく4サイズにしました」というご報告と、生産確認用のサンプルが届いていい感じに仕上がってきた、というところまで。
そのサンプルを、そして本番のニット帽を、実際につくってくださっている東大阪の工場へ行ってきました。しかも「完成したもの」ではなく、まさに生産の途中――機械が動いて、糸が帽子になっていくその現場を見せていただきました。うかがったのは8月。ニットづくりがいちばん立て込む繁忙期のさなかに、無理を言っておじゃましてしまいました。
正直に言うと、ニット帽ができるまでのことを、僕はほとんど何も知りませんでした。この日、それが少しずつ形になっていく様子を目の前で見て、「1枚のニット帽って、こんなにたくさんの判断でできているのか」と、何度も声が出てしまいました。
前編では、このニット帽をつくってくださっている“つくり手”と、その手仕事に隠された工夫のお話をお届けします。
つくっているのは、ひとりの職人さん

今回のニット帽を手がけてくださっているのは、ひとりのベテラン職人さんです。
もともとは婦人物のセーターをつくる職人さんで、この道はもう20年以上。編み機に「どう編むか」を伝えるためのデータ(設計図のようなプログラム)を、専用のソフトで一からつくっていきます。そしてこのデータづくりが、実は工場の中でもこの方にしかできない仕事なのだそう。

「パソコンを触るのが好きなんですよ」と職人さんは笑います。データをつくって、機械で編んでみて、「あ、ここ違うな」と思ったらまたつくり直す。その繰り返しがずっと続くのに、「完成品を見るのが好きで。面白いから続けてるのかもしれないですね」と話してくれました。
つくっている方が「面白い」と思いながら、手をかけてつくっている。こんな方がつくった帽子なら、かぶる人もきっと気持ちよく使えるはず。そう思えて、なんだか嬉しくなってしまいました。
つなぎ目がない、ということ

カムリのニット帽は、「ホールガーメント」という編み方でつくられています。ざっくり言うと、縫い合わせるのではなく、筒の状態でまるごと編み上げてしまう方法です。だから帽子の内側に、縫い代やつなぎ目がありません。
その筒を折り返して、表と裏の二重に仕立てていく。表と裏で2種類の生地を使っているのに、肌に触れる裏側をやさしい素材にできて、しかもつなぎ目なく心地よい肌あたりになるのも、この編み方だからこそでした。ただ、この「表と裏を切り替える」工程は、見た目の印象よりずっと手間のかかる部分なのだそうです。

そして帽子のてっぺん。多くの場合は、機械で編んだままきゅっと締めて仕上げるのだそうです。でもここではひとつひとつ、人の手で閉じています。ぎゅっと締めて終わり、ではなく、きれいに、ぺったんと収まるように。かぶったときにてっぺんがもたつかない、あのすっきりした見た目は、この手間の先にあったんだと知りました。お伺いしたときは実際に職人さんに実演していただきました。
「誰も気づかない」ところにこそ
見学の中で、いちばん印象に残ったのがこの話です。
ニット帽はかぶると生地が伸びます。伸びると、表と裏を切り替える折り返しの位置がずれて、かぶり口のあたりがガタガタして見えてしまう。そこで職人さんは、その切り替え部分が歪まないよう、折り返しがちょうどいい位置に、しかも内側に隠れて収まるように、あらかじめ折り線まで仕込んで編んでいるのだそうです。外からは絶対に見えない部分です。

「これは計算しましたね。みんな気づかないと思いますけど」
本当に、言われなければ絶対に気づきません。でも、その“気づかない工夫”があるから、かぶったときに自然で気持ちがいい。誰の目にも触れないところまできれいに整える――見えないところにいちばん神経を使う、というものづくりの姿勢を、目の前で見せてもらった気がしました。
見えないところにまで、こんなにも手をかけてつくられていたカムリのニット帽。後編では、その1枚にどれだけの「時間」と「神経」がかけられているのか――品質へのこだわりと、つくれる数のお話をお届けします。
【ニット帽企画・第6回】1枚に、90分。― つくり手のこだわりを訪ねて(後編)
過去のブログは以下から^^





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